塗料

溶剤(液状)塗料と粉体塗料のメリット、デメリットを比較してみた

 

この記事で分かること
  • 溶剤(液状)塗料の作業性、コスト、特徴について
  • 溶剤(液状)塗料のメリット、デメリット
  • 粉体塗料の作業性、コスト、特徴について
  • 粉体塗料のメリット、デメリット
  • 溶剤(液状)塗料と粉体塗料の特徴比較

こんにちは、あさばらです。

工業製品を塗装する塗料の中で、ポピュラーな塗装方法が2種類あります。

粉体塗料溶剤(液状)塗料です。

最近では、パウダーコート(粉体塗装)を売りにしているインテリア製品や雑貨を目にしますが、ハッキリ言ってパウダーコート=優れているわけではありません。

昔ながらの液状塗料にも多くの優れた点があり、日本の製造業を陰ながら支えてきました。

本記事では、粉体塗料と溶剤塗料のそれぞれの特徴と、それぞれが持つメリット、デメリットを解説します。

溶剤塗料(液状塗料)とは

溶剤塗料とは、有機溶剤の入った液体状の塗料です。

液状塗料と呼称されることもあります。

一般に、塗料というワードから思い浮かぶのはコチラのほうだと思います。

ここでは、工業塗装に用いられるエアスプレー塗装を前提とした溶剤塗料の特徴を解説します。

溶剤塗料のメリット

低コストなラインナップが豊富

溶剤塗料には、メラミン樹脂塗料、メラミンアクリル樹脂塗料、ラッカー樹脂塗料など、低コストで調達可能なものが多く存在します。

また、これらの塗料は少量の荷姿(1㎏~)で購入が可能です。

(メーカーや販売店による)

納期が短い

溶剤塗料は、指定の色をオーダーした際の納期が早い傾向にあります。

理由は、溶剤塗料を製造する作業は、あらかじめ用意された原色を混ぜ合わせて色を再現(調色)する場合がほとんどだからです。

そのため、受注後に大掛かりな樹脂、添加剤の混合等を必要とせず、混ぜるだけの工程で製品が完成します。

調達性が高い

上記2点の理由から、調達性が高いと言えます。

調色せずに原色で販売する場合は殆ど納期がかからず出荷できますし、色の変更があっても、近い色であれば原色を継ぎ足すことでユーザーによる調色、微調整が可能です。

多様な用途や作業環境に対応できる

溶剤塗料には本当に多くの種類があり、製品の用途や要求スペック、または塗装する際の環境や、求める作業性によって使用する種類が変わります。

例えば、

  • 低温で焼き付けたいけど強い塗膜にしたい
  • 下塗から上塗の塗り重ね可能時間を短くしたい
  • 少ない工程で厚膜に塗装したい

等々点多様な仕様やユーザー環境に対して、柔軟に対応ができます。

調色とは?

絵具を塗るとき、パレットの上で原色同士を混ぜ合わせて理想の色を作りますよね。

あんな感じで、白、黒、赤、青、黄、緑、赤錆、黄土、紫といった原色を混ぜ合わせ、お客様に指定された色を再現することを調色といいます。

調色は、人の手で行うか、CCM(自動調色機)で行います。

最近ではCCMも性能が上がってきましたが、鮮やかな色(濃彩色)は今でも人の手と目が必要です。

溶剤(液状)塗料のデメリット

ある程度の技術習得が必要

液状塗料の塗装は、未経験の人が行うと高い確率で綺麗に仕上がりません。

液状塗装を行うためには、ある程度の技術と経験が必要です。

昨今では溶剤塗料を塗装できる技術者が減りつつあるので、塗装業者様にとって溶剤塗装ができるスプレーマンは貴重な人材です。

有機溶剤中毒予防規則に基づいて作業が必要

有機溶剤を用いる溶剤塗料は、有機溶剤中毒予防規則に基づき、塗装ブースの整備や調合時の局所排気整備、また作業者の有機ガス対応防毒マスクの装着義務等があります。

また、有機溶剤を取り扱う作業者は、年に2回の健康診断及び診断結果の30年以上の保存が義務付けられています。

シンナーによる希釈が必要

溶剤塗料の殆どは、塗装する前にシンナーで希釈する必要があります。

塗りやすくするために粘度を落としたり、乾燥スピードをコントロールするのです。

これも、どの程度シンナーを入れるか、乾燥速度の選定等、経験が必要な作業と言えます。

塗装環境によって仕上がりが変わり易い

季節(気温や湿度)の違いにより、仕上がり外観に差が出ることがあります。

この変化は先述のシンナーコントロールや塗装技術によって賄うことができますが、すなわち環境変化に適応できるスキルが必要ということになります。

粉体塗料に比べ、塗着効率が悪い

あくまで粉体塗料と比較した場合ですが、塗着効率は良くありません。

塗り方によっても左右されますが、一般的にスプレー吹きで塗装した溶剤塗料は、吐出した量の3~4割程度しか塗膜になっておらず、残りの6~7割は全て捨てていることになります。

粉体塗料とは

粉体塗料とは、文字通り粉末状の塗料です。

一般家庭向けでの流通は無いので、この業界に関わってない人のほとんどは想像もつかないかもしれません。

粉体塗料は、特殊な専用塗装機でのみ塗装することができますが、塗装ブースや回収装置のある環境でなければ塗装することができません。

ここでは、粉体塗装機を用いた吹付式の粉体塗装を前提とした粉体塗料の特徴を説明します。

(流動浸漬、フローコーター等は含みません)

粉体塗料のメリット

有機溶剤を用いない

有機溶剤を用いずに塗装が可能なため、塗装作業者は防塵マスクのみ装着していれば塗装が可能です。

また、環境に応じたシンナーコントロールが不要なので、1年通してほぼ同じ仕上がりが期待できます。

静電気の力で塗着効率が高い

粉体塗料は、粉体塗装機という機械によって静電気を発生させ、静電気の引き寄せる力を使って対象に塗布します。

そのため、直線的に被塗物に付着するだけでなく、電界内で回りこむような動きをしてくれます。

筒状の物や複雑な形状なものでも、静電気の力で入り込んでくれるのです。

また、この引き寄せる静電気の力で塗装することにより、塗料のロス(廃棄)が少なくなります。

溶剤塗料では塗布した塗料の3~4割程度が塗膜となりますが、粉体塗料は5~7割程度が塗膜になるため、ロスは少なくなります。

厚膜塗装が容易

粉体塗料は静電気の力でくっつくので、静電気の力が許す限り、表面に沢山の塗料を付着させることができます。

また、液状塗料のように垂れることもないので、一度に多くの膜厚を形成することができます。

高い技術がなくても比較的綺麗に塗装が可能

以上のような『シンナーコントロールが不要』『静電気の力で回りこんでくれる』『膜厚がつけやすい』という特徴は、結果として塗装作業そのもののハードルを下げてくれます。

粉体塗装=簡単ではありませんが、液状塗料の塗装に比べれば敷居は低いです。

塗料ロスを減らせる

粉体塗料は、回収装置という設備を使うことで、塗装時のロス(廃棄分)をほぼゼロにすることができます。

塗装機から塗布され、被塗物にくっつくことができなかった塗料は、通常はブースに吸われてロス(破棄)となりますが、回収装置は吸われた塗料を回収・蓄積し、再度塗料として使用することができます。

粉体塗料のデメリット

特定の設備が必須

粉体塗料を使うためには、最低でも粉体塗装機、塗装ブース、焼付乾燥炉が必要です。

塗装ブースを持っていない塗装業者様はいないと思いますが、粉体塗装機は安いものでも70万円程度、高いものだと200万円近くします。

焼付乾燥炉も、粉体塗料を焼き付けるのであれば200℃くらいまでは加熱ができるものが必要です。

焼付温度が高い

液状塗料に比べて、粉体塗料の焼付温度は高温です。

最も低い温度でも、物体温度を160℃×20分以上をキープする必要があります。

リコート(再塗装)が難しい

塗料は樹脂、すなわち絶縁体です。そして、粉体塗料は静電気を使って塗料を吸着させます。

一度絶縁体で包まれたものに、再度静電気を帯びさせて塗装しようとすると、うまく電気が流れず、静電反発という現象を起こします。

この静電反発があるため、液状塗料のリコートよりも難しくなります。

受注生産の場合は納期がかかる

粉体塗料は、液状塗料のような原色を混ぜ合わせる方式で調色製造するのではなく、樹脂や顔料、添加剤をイチから溶かして混ぜ合わせ、固めて、色を確認して、粉砕して粉にするという工程で製造します。

また、製造バッチも殆どのメーカーが300㎏~となっています。

希望する色に合わせてもらい、粉体塗料を製造するには、どんなに早くても2週間、長いところでは2~3ヵ月の納期がかかります。

夏場の貯蔵性が悪い

粉体塗料は、粉の状態であることが重要ですが、高温多湿の環境にさらすと、粉同士がくっついてしまい、塊になってしまうことがあります(ブロッキング)。

粉体塗料は基本的に30度以下の暗所保存が望ましいです。

まとめ

ここまで書いてきた、液状塗料、粉体塗料がもつ特徴を表にまとめてみました。

メリットとして重要なポイント・・・青文字

デメリットとして重要なポイント・・・赤文字

  溶剤(液状)塗料 粉体塗料
塗料コスト

小口購入が可能
安価なラインナップもありコストを抑えやすい

大量購入すればコストを抑えられる
小口購入すればするほどkg単価は高くなる

設備コスト 安価な設備で塗装可能 ある程度の設備出資が必要
塗着効率 3~6割 4~8割
納期 3~4日 もしくは 1~2週間 (メーカー在庫品)3~4日
(指定色、見本合せ)2~3週間、1~3ヵ月
仕上がり安定性 季節や作業環境によって変化 季節や作業環境の影響が少ない
作業性 ある程度の技術習熟、経験を要する 液状塗料よりも技術、経験を要さない
(簡単という意味ではありません)
貯蔵安定性 分離、ゲル化の恐れがあるので長期保存には向かない 高温多湿環境での保管はブロッキングの恐れがあり厳禁
冷暗所保管であれば長期保管してもリスク低
環境への配慮 有機溶剤を用いる場合、
作業者への健康への配慮、作業環境への配慮が必要
有機溶剤を用いない為、環境に優しい
ラインナップ 用途別、性能別、作業環境別にラインナップ豊富 液状塗料に比べると少ない

こうして見てみると、液状塗料と粉体塗料のどちらが優れているということはありません。

用途や作業環境、仕事の継続性によって、どちらを選択するべきかが変わります。

塗装案件ごとに最適な塗料を選定し、良品が少ない不良率で生産できることが一番良いことです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。