塗料

工業塗装でよく使われる塗料の特徴と比較

この記事で分かること
  • 工業用塗料、金属焼付塗料にどんなものがあるか
  • それぞれの塗料の長所と短所
  • それぞれの塗料が使用されている製品や業界
  • それぞれの塗料のメーカーごとの商品名称

こんにちは、あさばらです。

工業塗装に使われる塗料には多くの種類があります。
それもそのはずで、”工業塗装”という言葉が差す対象が広いためです。

工業塗装、工業分野という言葉が差し示す業界は、
白物家電から、建築用外装パネル、自動車部品、業務用機器外装等々……多岐にわたります。

工業塗装=工場で生産しているものの塗装 という言葉が的確かもしれません。

この記事では、沢山ある工業塗装用の塗料を、ざっくりとカテゴリー化し、長所、短所をまとめました

方法としては、塗料を評価するための要素を6つ設け、それぞれの要素を10点満点で評価しました
点数が高いほど、優れているということになります。

※点数は、各カテゴリーの代表的な塗料のスペックを表したものです。

ちなみに、本記事におけるカテゴリー分けは、それぞれの分野別塗料を比較、理解しやすくするために分けたもので、
実際には更に細かく分類することができます。

種類によっては、複数のカテゴリーに当てはまる塗料もあります。
しかし、それら全てを網羅しようとすると、あまりにも種類が多すぎて比較も難しくなってしまいます。

この記事は、工業塗装、工業用塗料のことを、初心者の方に分かり易く伝えるために書きました

そのため、お詳しい方が読まれると、

『〇〇の塗料がないじゃないか!』とか、

『それは正確にはそのカテゴリーではないのでは?』とか、

そういったご意見もあると思いますが、予めご了承ください。

(上記のような意見は是非Twitterや問い合わせフォームよりお願いしますm(__)m)

6つの要素について

各塗料の評価のために、この記事では6つの要素を設け、評価の基準としています。

価格 塗料調達コスト。スコアが高い=安価となる
耐候性 屋外暴露(紫外線や雨風)に対しての性能
耐薬品性 化学薬品や溶剤の付着に対しての性能
塗膜硬度 塗装した表面の硬さ
厚膜性 スプレーガンで塗装した際の膜厚のつけやすさ
作業性 焼付温度や手離れの良さを加味した評価

この他にも、耐汚染性、耐水性、屈曲性、色域といった要素もありますが、
今回はあくまで各塗料のイメージを簡易的に指し示すため、上記6要素に絞って評価しています。

各項目の数値は、数値が高ければ優れているということになります。

また作業性の項目は、焼付温度が低い場合は評価を高くしています。
2液性である場合は、作業性の評価を低くしています。

アミノアルキド(メラミン)樹脂塗料

アミノアルキド(メラミン)樹脂塗料は、工業分野で広く用いられている、1液型焼付塗料です。

以下の用途一覧を見ても分かる通り、様々なところで採用されている塗料です。
工業塗装の代表的な塗料と言えます。

【用途】

家電機器、配電盤、エレベーター、モーター、計器盤、
鋼製家具(デスク、椅子、物置、キャビネット、ロッカー等)、
容器(ドラム、ボンベ、タンク等)、
住宅関連材(サッシ、シャッター、問扉、フェンス等)、
車輌・自動車(二輪車、乗用車、トラック、車輌内部等)、
農業機械(トラクター、コンバイン、田植機等)

【塗料名称】

デリコン#300(大日本塗料)
アミラック1000(関西ペイント)
オルガネオ(日本ペイント)
トアメラタイト#300(トウペ)

価格 8
耐候性 4
耐薬品性 3
塗膜硬度 4
厚膜性 4
作業性 9

特徴としては、価格が安い割に、性能がそれほど低くないという点です。

耐候性もコストの割に極端に低いわけでもなく、
業界によっては屋外用途製品にメラミン樹脂塗料を採用している場合もあります。

また、焼付温度が低く、塗料自体の伸びや塗り易さもあり、作業性が良好と言えます。

しかも、小ロットでの購入が可能なことが多く、小口案件にも対応しやすいです。

目立った弱点もなく、特段要求性能がない場合は、このメラミン樹脂に落ち着くケースが多くなります。

エポキシメラミン樹脂塗料

エポキシメラミン樹脂塗料は、先述したアミノアルキド(メラミン)樹脂塗料に、エポキシ樹脂を混ぜることで、エポキシの持つ耐薬品性、厚膜性を付与したものです。
業界内では、エポメラと略されて呼ばれたりしています。

屋内用途でも、ややや耐薬品性が求められたり、防錆性能が必要となる場合に選定されます。

【用途】

配電盤、モーター、計器盤、
鋼製家具(デスク、椅子、物置、キャビネット、ロッカー等)

【塗料名称】

デリコン#700(大日本塗料)
アミラック4000(関西ペイント)
トアメラタイト#400(トウペ)

価格 7
耐候性 3
耐薬品性 5
塗膜硬度 3
厚膜性 4
作業性 7

メラミン樹脂塗料の上位互換と言いたいところですが、残念ながら違います。

エポキシ樹脂を含有させることで、耐薬品性、防錆力厚膜性を向上させています
また、単膜による密着力も通常のメラミンより高いようです。

しかし、引き換えにコスパと耐候性を犠牲にしています

防錆力や密着力、膜厚というのは、プライマー(下塗)で解決できます。
最近はプライマーも性能が上がっており、高膜厚塗装が可能で、かつウェットオンウェット(プライマーを塗布したあと、焼かずに上塗を塗布すること)が可能なものも少なくありません。

ここ最近だと、エポメラは中途半端なイメージです。

工程やコストの兼ね合いでプライマーは絶対入れられない!
でも防錆力、耐薬品性は欲しい!なんていうケチハードな要望に、仕方なく採用する感じの塗料です。

メラミンアクリル樹脂塗料

メラミンアクリル樹脂塗料は、熱硬化形アクリル樹脂塗料(純アクリル)に、メラミン樹脂を混ぜ込むことで、コストを抑えた塗料です。
メーカーのカタログや製品要覧では、メラミンアクリルという項目が存在しないことも有ります。

主に屋外用途へ採用されることが多い塗料です。

【用途】

配電盤、計器盤、
容器(ドラム、ボンベ、タンク等)
住宅関連材(サッシ、シャッター、問扉、フェンス、カーテンウォール等)
外部柵
車輌・自動車(二輪車、乗用車、トラック等)
農業機械(トラクター、コンバイン、田植機等)

【塗料名称】

NEWアクローゼ(大日本塗料)
マジクロン1000(関西ペイント)
スーパーラックネオ(日本ペイント)
トアアクロンH450(トウペ)

価格 6
耐候性 6
耐薬品性 3
塗膜硬度 6
厚膜性 3
作業性 7

メラミン塗料の上位互換は、エポメラではなくメラミンアクリル塗料という印象です。

というのも、そこまでコストを上げずに、耐候性、塗膜硬度を上げることができるからです。

デメリットとしては焼付温度の高さですが、むしろこの高い焼付温度を理由に採用している塗装業者様もあったりします
これはどういうことかというと、高温焼付(アクリル、フッ素、粉体塗料など)を主としている塗装業者様は、乾燥炉の温度も一日を通して常に高温(150~200℃)です。そこに、メラミン塗装の仕事が入ってきてしまうと、高温に維持していた乾燥炉を、わざわざ温度を下げる必要があります。かといって純アクリル、フッ素、粉体塗料で塗ってしまうと、塗料コストが上がってしまい、塗装単価が割に合わなくなってしまいます。そこで、メラミンではなくアクリルメラミンを選定することで、若干の塗料コストアップをするかわりに、乾燥炉の設定温度をそこまで下げずに塗装することができます。

メラミンアクリルの弱点としては、膜厚が付きにくいという特徴があります。そのため、膜厚の指定がある場合は、プライマーや下塗用粉体塗料で膜厚をあらかじめ着けてから塗布する必要があります。

純アクリル樹脂塗料

純アクリル樹脂塗料は、文字通り樹脂成分がほぼアクリルで構成された塗料です。先述のメラミンアクリルは、この純アクリル樹脂塗料の廉価版になります。

純アクリル樹脂塗料は、耐候性が優れていることから、主に建築部材用途に使われています。

【用途】

建築用部材(建造物外装、化粧板、カーテンウォール)
フェンス、外部柵
外部用製品(ベンチ、遊具)

【塗料名称】

デュラクロンCW(大日本塗料)
マジクロンCW(旧称:建材用マジクロン)(関西ペイント)
トアメタルトップCW(トウペ)
※CW……カーテンウォールのこと

価格 4
耐候性 9
耐薬品性 4
塗膜硬度 7
厚膜性 2
作業性 4

純アクリル樹脂塗料は、上記の数値の通り、とにかく耐候性に優れた塗料です。

建造物の外側に取り付けられるアルミパネル(カーテンウォール)の塗装に用いられることが殆どです。

または、屋外に設置される製品にも採用されることがあります。

弱点としては、膜厚がつきにくいことと、調色できる色域が狭いことです。
特に色域については、鮮やかな濃彩色(特に黄色や赤色)の再現性が低く、黒く濁ってしまいます。

この理由として、鮮やかな色を表現するには、鮮やかな色の顔料を大量に含有させる必要があります
鮮やかな色の顔料は、コストがかかるうえ、紫外線による色落ちが早いです。よって、アクリル樹脂塗料で鮮やかな色をバッチリ出して、高耐候性スペックも維持するとなると、塗料コストが超高額になってしまうんです。

上記の理由から、どこの塗料メーカーも、鮮やかな色が出るアクリル樹脂塗料を保有していません。
(もし有ったら私の勉強不足です。是非教えてください。)

余談ですが、関西ペイントの純アクリル樹脂塗料、マジクロンCWは、わりと調色できる色域が広いイメージです。
おそらく、原色数を多く取り揃えているのだと思います。

ポリウレタン樹脂塗料

ポリウレタン樹脂塗料は、ウレタン結合による硬化により、高い耐候性、耐薬品性、耐溶剤性を持つ塗料です。

工業塗装、自動車補修塗装、建築塗装、構造物など、あらゆる業界で重宝されている、最も汎用性が高い塗料です。

【用途】

車輌・自動車(二輪車、乗用車、トラック)
住宅関連材(サッシ、シャッター、問扉、フェンス等)
配電盤、計器盤、その他屋外設置機器
工作機械外装
補修

【塗料名称】

<2液常温乾燥>
Vトップ(大日本塗料)
Vシャイン(大日本塗料)
レタンPG80(関西ペイント)
レタンECOトップ(関西ペイント)
naxネオウレタンECO(日本ペイント)
ニッペウレトップエコ(日本ペイント)
ハイロックDX(ロックペイント)
パナロック(ロックペイント)
スタークM(ナトコ)
スターク1(ナトコ)
ガメロン(ナトコ)

<1液焼付>
Vクロマ#100CW(大日本塗料)
Vクロマ#100ECO LB(大日本塗料)
レタンECOベーク(関西ペイント)
ユニポン2500(日本ペイント)
トアメタルウレタンCW(トウペ)
トアメタルウレタンCWーST(トウペ)
ロックIUウレタン(ロックペイント)
ステラベーク(ナトコ)

価格 3
耐候性 8
耐薬品性 6
塗膜硬度 8
厚膜性 6
作業性 3

上記のスペックは、2液性のアクリルウレタン、もしくは1液焼付型のアクリルウレタンを想定しています。
建築分野にある、1液のエマルションタイプのウレタン塗料は、上記スペックよりも塗膜硬度、耐薬品性、耐候性はやや落ちます。

2液性である、もしくは1液焼付でも高温(160℃×20分以上)が必要であるという2点から、作業性を低く評価していますが、それを加味しても高いスコアとなる塗料です。

2液性であるということは、逆に言えば焼かなくても硬化するので、熱をかけるのが難しい製品や、鋳物、板厚のある素材にも塗布が可能です。
また、60~80℃の温度で10~20分程度することで、硬化を促進することが可能です(強制乾燥)

1液焼付タイプは、ブロックイソシアネート(ブロック剤でコーティングされた硬化剤)が予め主剤に混ぜ込まれており、熱がかかることでブロック剤が解けて、主剤と硬化剤(イソシアネート)が混ざり、硬化するという仕組みです。
最近では、低温(120~130℃)でもブロック剤が解けるものが出てきており、更に作業性は高くなってきています。今までメラミン塗装一択だった塗装業者様でも、高いスペックのウレタン塗装が可能になったのです。
しかしこの低温焼付型の1液ウレタンは、貯蔵安定性に優れず、夏のシーズンを超えた在庫は、塗り上がりをよく確認してから製品に使用することをお勧めします。

※あえてポリウレタン樹脂塗料と表現しましたが、塗料業界におけるウレタン塗料は、そのほとんどがアクリルウレタン樹脂塗料です。
これはちょっとややこしいんですが、説明すると超長くなるので、別の記事で説明します。

フッ素樹脂塗料

フッ素樹脂塗料は、建築分野で使用されることが多く、先述の純アクリル樹脂塗料と同じような用途、ニーズに向けられています。

最も優れた耐候性を有すると同時に、最もお値段が高い塗料です。

【用途】

建築用部材(建造物外装、化粧板、カーテンウォール)
屋外設置機器外装

【塗料名称】

Vフロン#2000(大日本塗料)
カンペフロンEX(関西ペイント)
デュフロンK300(日本ペイント)
ニューガーメット3000(トウペ)
ニューガーメット2000TL(トウペ)

価格 1
耐候性 10
耐薬品性 6
塗膜硬度 8
厚膜性 6
作業性 4

※本記事は工業塗装向けの記事となる為、2液常温硬化形のフッ素に関しては言及しておりません。

純アクリル樹脂塗料同様、その優れた耐候性から、カーテンウォール、建築物外装への採用がほとんどです。

また、屋外に設置される機器(監視カメラの制御ボックスなど)にも採用されることがありますが、これは官庁、インフラ企業関連が多めです。それは、コストがとにかく高いためです。民間の大量生産品は、コストを抑えることを考えます。

純アクリル樹脂塗料の上位互換のような位置づけではありますが、硬化メカニズムが違います。純アクリルは熱硬化形樹脂による硬化反応ですが、フッ素樹脂はイソシアネート硬化によるものが多いです。

東京スカイツリーの外装はフッ素樹脂塗料で塗装されています
耐候性というのは、艶を全艶有にすると高まります。屋外にさらされた塗膜は、劣化の第一段階として、艶がなくなっていきます。艶がなくなりきると、いよいよ表層が粉末化し、チョーキングが始まります(劣化した塗膜を指で触ると、チョークの粉のようなものが指につく状態)。
ということは、最初から艶があったほうが、チョーキング発生までの時間を稼ぐことができます。そのため、艶はあればあるほど良いということになります。

余談ですが、東京スカイツリーを全艶有で塗装する構想もあったそうです。しかし、あれほど巨大な建築物が艶有で太陽光を反射したら、眩しすぎて問題になるのではと考えられ、7分艶に落ち着いたようです。

ニトロセルロースラッカー樹脂塗料

ニトロセルロース(ラッカー樹脂塗料は、硝化綿ラッカーとも呼称される、1液性の常温乾燥塗料です。

トップコートとしてはもちろん、様々な場面でのタッチアップ(補修)にも使われるほか、スプレーの原料や、DIY向け塗料としても使われることから、最も広い需要範囲を持つと言えます。

【用途】

工作機械外装
鋼製家具(デスク、ロッカー、棚、キャビネット等)
容器(ボンベ、ドラム、タンク等)
補修
DIY
スプレー缶の原料
木部塗装

【塗料名称】

DNTラッカーECO(大日本塗料)
トアラッカー#500(トウペ)
ワイド(ナトコ)
ロックラッカー(ロックペイント)

価格 7
耐候性 1
耐薬品性 1
塗膜硬度 1
厚膜性 1
作業性 8

様々な場面、分野で愛されるニトロセルロースラッカーですが、上記の通り、スコアは最悪です。これは、あくまで工業塗装における、他の工業用塗料と比較した場合の評価です。木部塗装の業界ともなると、ニトロセルロースラッカーは高級家具の表面に塗装されていたりします。

一般消費者向けのインテリアなどでも、ラッカー塗装がされていることがあります。

メリットは、その作業性の高さです。速乾性、1液、簡単に塗ることができ、塗り方も選びません。それ故に、多くの場面でニーズがある塗料です。しかし、これまで紹介してきた他の塗料に比べると、耐候性、耐薬品性、塗膜硬度、厚膜性は最低レベルです。何故かというと、ラッカー塗料は架橋反応、硬化反応というものを使っておらず、塗った表面の溶剤分が揮発して乾いているだけだからです。

厚膜性は、無希釈で刷毛、ローラー塗りするのであれば高膜厚となりますが、この記事ではスプレーガン塗装した際の膜厚を評価基準にしています。

価格は安いのですが、メラミン樹脂塗料に比べるとやや高価となります。

ラッカー塗料には、塗料自体に溶解力がある為、厚膜に塗られた塗膜や、粉体塗料の研磨したところにタッチアップ塗装したりすると、粉体塗膜を侵してしまうことがあります。その場合は、弱溶剤型の塗料を使ってタッチアップしてください。

アクリルラッカー樹脂塗料

アクリルラッカー樹脂塗料は、ニトロセルロースラッカーの上位互換です。

ニトロセルロースラッカーにアクリル樹脂を含有させることで、耐候性、密着力を高めています。

【用途】

工作機械外装
鋼製家具(デスク、ロッカー、棚、キャビネット等)
容器(ボンベ、ドラム、タンク等)
車輌・自動車(二輪車、乗用車、トラック等)
補修
DIY
スプレー缶の原料

【塗料名称】

アクリック1000(関西ペイント)
アクローゼスーパーECO(大日本塗料)
ニッペアクリル(日本ペイント)
トアメタクロン(トウペ)
エイト(ナトコ)

価格 6
耐候性 3
耐薬品性 2
塗膜硬度 1
厚膜性 2
作業性 8

ニトロセルロースラッカーと違い、アクリルラッカーは自動車部品に塗装されることもあるなど、大出世を遂げています。確かに、アクリルラッカーの塗膜性能は侮れず、作業性がニトロセルロースラッカーと同じなのに塗膜性能がそこそこ良好です。

しかし、所詮はラッカー塗料ですので、架橋反応、硬化反応を用いていません。その為、外的要因で簡単に塗膜は裂傷、破壊されてしまいます

自動車の足回り部品や、工作機械外装など、意外と各方面で重宝されている塗料です。

焼き付ける設備がない、もしくは焼き付けられないほど板厚が厚いが、2液性の常温硬化塗料は使いたくない。そんな需要家へのニーズが高い傾向にあります。

フタル酸樹脂塗料

フタル酸樹脂は、酸化重合(空気中の酸素と反応して塗膜形成される仕組み)を用いて硬化する、1液性の常温乾燥塗料です。

合成樹脂調合ペイントとか、長油性フタル酸と呼称されることもあります。

【用途】

屋外設置設備(公園の遊具、街路ポール)
パレット
工作機械外装
建機、重機
容器(ボンベ、ドラム、タンク等)
DIY
スプレー缶の原料

【塗料名称】

ネオフタリット(関西ペイント)
ユニパックネオ(日本ペイント)
ハイメル(大日本塗料)
ネオグリプトン#100(トウペ)

価格 7
耐候性 6
耐薬品性 4
塗膜硬度 3
厚膜性 8
作業性 5

いわゆるペンキと称される塗料は、フタル酸樹脂塗料の種類に属します。ペンキは昔ながらの長油性フタル酸ですが、作業性の悪さ(乾燥の遅さ)から、工業塗装で長油性フタル酸はほとんど使われていません

現在はどのメーカーのフタル酸も、乾燥性、作業性、レベリング性(平滑性)の向上が高められています。そのため、フタル酸と呼称こそされていても、塗料のラベルやSDSには、合成樹脂調合ペイントと記載されているパターンのほうが多いかもしれません。

フタル酸は、ラッカーと同じく1液性の常温乾燥塗料ですが、塗膜性能はなかなか優秀です。ラッカーは塗装後、表面の溶剤分が揮発して乾くだけですが、フタル酸は塗装後に空気中の酸素と反応することで塗膜を形成するため、しっかりとした塗膜となります。耐候性が高く、完全硬化したフタル酸の塗膜は、メラミンアクリル樹脂程度の耐候性を有します

フタル酸で塗装したものは、完全硬化まで1週間程度かかります。これは、塗装後も塗膜内で酸化反応が続いているためです。そのため、膜厚を厚く塗った場合、酸化反応はその分長く続きます。

この特徴から、フタル酸樹脂は、コンベアライン塗装等で大量生産するものには不向きです。大量生産品は、塗布後、焼き付けて、すぐに梱包して出荷されます。しかしフタル酸で塗ったものをすぐ梱包してしまえば、梱包材量が張り付いてしまい、商品になりません。フタル酸のような乾燥が遅く、製品出荷まで時間を有することを、『手離れが悪い』と表現します

また、フタル酸樹脂塗料を使用する際、注意しなければならないことがあります。それは、酸化反応による熱です。フタル酸樹脂を塗装したあと、フタル酸樹脂塗料のミストが付着したブースのフィルターを取り外し、そのフィルターを重ねて置いておくと、酸化反応がまだ続いていることで発熱します。フィルターがヤシガラ(ヤシの実の表面をほぐした素材)でできていたりすると、とても燃えやすいため、フィルターが発火します。

フタル酸が付着したフィルターを破棄

フィルターから発火、家事発生

この流れのボヤ騒ぎは、毎年1回は必ず耳にします。十分ご注意ください。




エポキシ樹脂塗料

エポキシ樹脂塗料は、耐薬品性、耐汚染性、防食性能が非常に高い、常温乾燥塗料です。

1液性の下塗塗料(高分子1液変性エポキシ樹脂)もありますが、ここでは2液性エポキシ樹脂塗料について説明します。

【用途】

構造物下塗
船舶
工作機械外装
プラント外装
重防食仕様の屋外設置設備

【塗料名称】

エポニックス(大日本塗料)
エピライト#1000(トウペ)
ハイポン(日本ペイント)
エスコ(関西ペイント)
エポマリンGX(関西ペイント)

価格 4
耐候性 1
耐薬品性 10
塗膜硬度 3
厚膜性 10
作業性 2

建築分野でも用いられることがありますが、一般家庭住宅、ビルやマンションではなく、橋梁や鉄塔など、大きな構造物の下塗に使用されます

用途の欄に書いた重防食とは、沿岸地域や離島、半島など、海の潮風にる錆に対して、強力な防錆力を付与することを表します。こういった仕様にも使われることから、エポキシ樹脂は防錆力に優れます

また、耐薬品性、耐汚染性にも優れるため、薬品工場の設備や、その他工場設備に塗装されることも有ります。

優れた防錆力、耐薬品性、耐汚染性は、エポキシ樹脂塗料の塗膜密度が高いことが理由です。
加えて、厚膜に塗りやすいため、外的要因が素地に到達するまでの時間を稼ぐことができます
(100μm以上)

耐候性は極端に悪く、紫外線によって簡単にチョーキングを起こしてしまいます

また、2液性であることのみならず、基本的に強制乾燥や焼付が推奨されていないことが多いため、手離れが悪いです。エポキシ樹脂を下塗、中塗とする塗装仕様のほとんどは、1デイ1コート(1日1塗膜)でしか塗装ができず、塗りあがりまで多くの時間と手間を要します

しかし、エポキシ樹脂塗料は、金属を保護するための重要な要素であり、我々の生活を支えてくれています。

ポリエステル樹脂塗料

ポリエステル樹脂塗料(溶剤)は、1液性の焼付塗料です。粉体塗料でもポリエステル樹脂は多く使用されますが、ここでは液状塗料のポリエステル樹脂について記載します。

マイナーかもしれませんが、意外と優れた性能を持つ塗料です。

【用途】

家電機器、配電盤、エレベーター、モーター、計器盤、
屋内外設備の部品
標識、屋外照明機器等

【塗料名称】

スーパーコートDB(大豊塗料)
オーデエコラインS-100(日本ペイント)

価格 4
耐候性 5
耐薬品性 3
塗膜硬度 6
厚膜性 3
作業性 7

最大の特徴は密着力が高いことです。通常、プライマーを入れなければならない非鉄金属素材に対し、ポリエステル樹脂塗料は単膜(プライマーレス)で塗装することができます

また、塗膜の仕上がり肌が美麗で、再現できる色域も広いので、鮮やかな濃彩色(黄色、赤、青等)は美しい仕上がりが期待できます。

デメリットとしては、厚膜塗装が難しいことコストがやや高いことが挙げられます。

そもそも販売しているメーカーが少ない液状ポリエステル樹脂塗料ですが、上記の数値を見ても分かる通り、全体的な性能バランスは良く、個人的にはもっと世の中に流通しても良いのでないかと思う塗料です。

流通量が少ない原因は、ポリエステル樹脂塗料に弱点があるというよりは、同じような用途、要求性能に対して、メラミン、メラミンアクリルが低コストで対応できるからだと思われます。

可能性を秘めた塗料だとは思うのですが、『とにかく安く!』『とにかく早く!』を求めがちな工業塗装業界で採用されていくためには、短納期の実現と、低コスト化が求められると思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。

工業塗装と呼ばれる分野で活躍する塗料をざっくりと紹介してみました。

本記事で紹介した塗料種類及び各メーカーの塗料ラインナップは、現在販売されているもののごく一部です。

各塗料メーカーでは、細かな要求スペック、多様な塗装条件に合ったラインナップを多数用意しています。

分かりにくい表現もあったかもしれませんが、更に詳しく知りたい!という方は、問い合わせフォーム、またはTwitterのDMからお気軽にお問合せください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!